Bannai Karen『纏わりつくモノ』
Bannai Karen
『纏わりつくモノ』
2020.1.20-2020.1.26
at WEST 1-A
女子美術大学をこの春卒業する坂内かれんさんの単独では初となる弊廊での展示が開催中。一点一点に静かながらも強度がある、密な作品が並んでいます。
女子美術大学美術学科洋画専攻に在籍する坂内かれんさんの個展。
スペースの照明を落としているということもあり、暗闇から作品が浮かび上がっているかのような演出になっています。
昨年9月に開催されていた女子力展では、少数ながら圧倒するような作品を展示されておりましたが、この個展では点数が増え独自の世界観が出来上がっています。
スペースに入ってすぐ鑑賞者を迎えるこちらの作品。
自画像を描いたものですが、その顔は大きく歪み、背景には蛾が敷き詰まっています。
美しさの象徴である蝶ではなく背景のモチーフとして蛾が描かれていること、顔の造形が捻じ曲げられているということは、社会が規定する「一般的な美意識」に対するアンチテーゼのように思えます。さらに、フレームの中の顔の歪んだ人物が他ならぬ自分の姿であることもまた、社会生活の中で確立された自分像と、自らが自覚する自分像の間の埋められぬ溝があるという、アンビバレンスな葛藤を表現しているように思えてきます。
顔や体など、はっきりと姿形は描かれていませんが、並んでいる作品の多くは女性を象徴的に描いたポートレイトです。クローズアップして見てみると、真っ黒な中に鏡のかけらが施されています。
フランスの哲学者ジャック・ラカンが唱えた「鏡像段階論」によれば、人が自我を形成していく過程には、「他者」との関係が重要な要素と言います。つまり「他者」とは自分自身を映す「鏡」としての機能を果たし、それらが映し出している鏡像から、自我が形成されていくという考え方です。例えば幼少期には母親や父親など家族、成長していくにつれて学校での友人関係など「他者」と接しながら生活することで、「他者にとっての自分」というイメージを形成していきます。
この作品において鏡は、そういった1人の人物を構成するもののメタファーとしての役割があるのかもしれません。自分を映すもの、自分を形成する他者の視点としての鏡というモチーフにより、「顔のない」ポートレイトとしての深みが生まれています。
お立ち寄りの際はぜひじっくりと、一つひとつの作品を観察して、思いを巡らせてみてください。展示は1/26(日)までの開催となります。
【展示スペース:WEST 1-A】