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阿部水咲 『私の彼女を紹介します。』



阿部水咲
『私の彼女を紹介します。』
2017.2.9-2017.2.12
at WEST 2-D

パートナーとの関係をSNSにアップロードする人々の気持ちが私には理解できない。
大切なもの、人、関係というものは当事者同士以外の承認は必要ないものだと思っているからだ。
しかし、彼らの行為は社会における承認型人間関係(結婚など)の延長線上にあると気づいた。
では、私もパートナーを作ることで彼らの気持ちは理解できるのだろうか。
疑問の答えを探すため、「私の彼女」として存在した彼女を撮った。
そして、今回、他者の介在を試みる。






SNSにパートナーの写真をアップする。
すなわちパートナーとのごくプライベートな関係のもと撮影された写真を、第三者、不特定多数に承認される。

ここ数年で当たり前になったごく普通の人たちによる承認を求める行為はしかし、阿部水咲さんには理解し難いことでした。

本展示はそうした行為に歩み寄ろうと試みに撮られた写真作品の展示です。




しかしそこである誤算が生じます。

身近な友人を被写体とし、自分の親密なパートナーとして写真を撮っていくうちに相手に対する愛着、出来上った写真に対する愛情のようなものが生まれ、他者に「見せる」ことに抵抗を感じるようになったそうです。

それは独占欲なのか、それとも知られたくない秘密を晒すことへの気恥ずかしさなのか。ともかく、実験的な試みの末にあくまでも仮そめのものであった相手との関係に変化が生じ、大事にとっておきたいという感情が生まれたのでした。




そうして写真は溜まっていき、「他者(=第三者)の介在があって初めて写真が作品として成り立つ」という考えのもと、晴れて今回の展示が実現したのだそうです。

「パートナーとの関係をSNSにアップロードする人々の気持ちを理解する」ということが出発点となったため、展示作品は平均的なスマートフォンのサイズにプリントされ、並んでいます。さながらスマートフォンの画面をスワイプして一枚一枚の写真を閲覧するような感覚で鑑賞することができる仕組みになっているのです。


発信ツールが容易に、且つ多様化したことでたしかに自分にとって親密なパートナーを不特定多数に見せる=承認される機会は誰もがごく普通に享受する時代になりました。
だからこそ撮る→見せる過程における矢印の部分の重要性は以前にも増して高まりつつあるのです。

本展示はもはや当たり前となった行為に投げかけられた問いかけのようなもの。
記録すること、見せること、インターネット時代における人間関係の多様性など、さまざまな部分を見つめ直すきっかけとなる展示でした。

【使用スペース:WEST 2-D】

written by isaka