WEST : 1-B
三人のカメラマンによる写真展『クワイエット』
梶原喜明さんに引き続き、
今回は辰巳直子さんの作品をご紹介します。
辰巳さんの写真は、景観の一部分を注視し、
対象が保持している意味を断片化させたり、剥奪したりしている。
意味が失われれば、本来の役目をも失う。
対象からアイデンティティーから抜け落ちて、
その像はおぼろげになってしまった。
写真が撮影された前後を想像できない写真。
像から物語を取り上げにくい作品。
作品の意図を読み取るヒントがおぼろげになる。
でも、ピントが外れていたとしても、像は確かにあって。
それは手がかりであり続けようとしている。
「正解なんて無い」
わかるんだけど、聞きたくない言葉の一つ。
正解の数を増やせばいいじゃない。
答えは一つだけ、そんなルールは無いよって。
靄のかかった場所を散策して、
自分が心地よいと思うものを勝手に、正解にしてしまえばいいじゃない。
それは自分だけのものです。
可能性が無数に広がる、辰巳さんの作品。
"それが" 何だかわからないというのに、
どうしようもなく愛しい存在になっていく。
受け手であるはずの自分が気づけば、
鑑賞を通して作品に意味を与える立場に立っている。
アイデンティティーが彼方へ飛んでしまったから、成せることなのか。
フラットな景色。
数センチの印刷物が観者を引き寄せます。
それは、心地よい引き手であります。
(ぱんだ)