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おぐらあやの 『ふかいたまり』


EAST : AP-10

眩しくて目を細めたくなる。

不純物が取り除かれた水たまりの飛沫の粒が、
差し込む光を拡散させる。

おぐらあやのさん
彼女は光に愛されていると思う。


あやのさんは、表面ではなく、
内なる色素をあらわにさせることで、対象を描く。

色の肉を見せてくれる。
物質からも鼓動が聞こえてくる。
指先を当てると脈の鳴りだって感じられる。

光が無ければ、僕らは物を見ることはできないけど、
行き過ぎた光は僕らの目を潰しにかかる。


でも、神経質かつ凶暴なアイツを、
彼女は手なずけているのです。


猛獣使いの彼女。

光を芯まで通して調理したら、湯気が立ち上る作品を
盛り付ける作業に入ります。

縦横の足を綺麗に揃えるなんてことはしない。
彼女が行うのはグルーピング。

さて、貴方の頭上に、継ぎ目の無い?マークが浮かびませんか?
触ってみて、上質な触り心地ではありませんか?

それはあやのさんの次なる魅力。


何かを吊るすわけでもなく突き刺さる釘。
僕がやったら「抜き忘れだよ」って言われるよ、絶対。
でも彼女の手に渡れば、それは必然となる。

壁面を分断するも、容易に乗り越えられそうなテーピング。
優しくこしらえたその家は、足首の深さの垣根。

細く、でも、強く絡み合う紐の行方。

床であることを忘れさせるディスプレイ。

ここはどこだろう。
言葉にならない場所に迷い込んでしまった。


いや、でも、あんまり困っていない。

うん、息苦しくない。


自分の手に余る空間に身を置いているというのに、
肩の力は抜けているし、
それどころか、目の前で湯気を上げているスープに手を伸ばそうとしている。
ずうずうしい。

「コトコト」音が聞こえてくる。
調理の最中かもしれない。
もう少しで出来上がる予感がする。

ここがどこなのか、スープを飲みながら考えたい。
だから、もう少しだけ。

彼女の描いた部屋の中で腰掛けていることにする。
そのうち、彼女も帰宅すると思う。

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さて、この家は本日(10月8日)を持って解体されるのです。
まだ、間に合います。

もしかしたら、あやのさんが帰ってきているかもしれない。
まだ間に合います。

その頃にはスープも煮込み終わって、飲み頃だと思うよ。

ぜひ、両手を暖めに、いらしてください。


(ぱんだ)