東京造形大学テキスタイルデザイン専攻3年
細谷 佳永さん、松尾 美沙さん
2014年7月に同スペースで開催された
『しろ展』から約半年。
再び、細谷さん、松尾さんの二人展が開催されました。
今記事と併せまして、是非『しろ展』の過去記事もご覧ください。
細谷 佳永
計画性はまるでないが
ひらめきを大切にするタイプ。
松尾 美沙
<トキメク要素>
構造 素材 色 質感
哲学 伏線
会場の入口にあるプロフィールボード。
導入部から、作品ははじまります。
細谷 佳永
「街と人」
素材:ニット地、アクリルガッシュ他
技法:編み
リアルタイムで変化していく街並みや人間の心を、
ひも編みのインスタレーション形式で表現する。
支柱は赤いカラーコーン。
細谷さんは会期中、身の回りにあった
衣類や生地を切り裂き、編み込み、繋げ、
一本の長い紐をつくり続けた。
紐になった生地たちは、その都度支柱に巻き付けられ、
仕舞いにはカラーコーンの皮膚の大半が覆われてしまった。
作品を上部から見下ろした図。
こちらは会期最終日に撮影した写真である。
カラーコーンは、カラーコーンらしさを失い、
巻き付いた生地は、機能性を放棄した姿、成れの果て。
生地は支柱を頼りに、巻き付く事で、
その姿、体裁を整えているように見える。
この作品の一部として、
細谷さんが長年愛用していた衣類が多分に編み込まれている。
そう、皆、人の肌に触れたことがある布たち。
夏場は着衣した者の汗を吸い込み、
跳ねた泥や、飛んだ砂を受け止め、
冬場は凍える外気から身を守った。
洗濯したからといって、
それらの成分は無しにはならないと思う。
それにしても、様々な衣類が巻き付けられている。
生き続けて、感性が変わり、異なる趣向の服を買い求める。
飽きることと新たに興味を持つことの繰り返しが、
作品の外見に表れている。
そしてまだらな布たちは、
ふと支柱の外側へ飛び出し、壁へ向かった。
そして壁に行き詰まったのち、
再び支柱へ帰ってきた。
その姿を見て、少し安心した。
放浪の旅に疲れて帰路についた彼の無事を
確認できたみたいに。
久しぶりに地元に帰ると、
帰る度に新たな建物に出会う。
フラットでのっぺりとした色の建物たち。
表面上にあったはずの粗い粒が、
余計とされ、ならされてしまったように。
効率とか色々気にしたら、
自然とそうなったのかもしれないけど。
本来、全てはきっと、違うものだと思う。
ヒトではないけど、ヒトに近い場所に存在するものたちを
一繋ぎにし、一つにすること。
これにより、私達が見慣れているはずのヒトの姿や、
その周りにある街並みを見直すきっかけとして。
改めて、違いを、受け入れる。
松尾 美沙
「着るテキスタイル」より「重ね」
素材:ウール、麻
技法:二重織
布は平面の状態でも美しい。
しかしそれを人が「纏う」ことで変化し、
さらに魅力的なものになるはず。
平面状態でも美しく、魅力的であることを伝えるべく、
あえて、体に合わせることなく、
平面の布を無縫製で服に仕上げた作品。
ご覧の通り、本当にフラットな仕上がりで、
服であることを忘れて、
一つの平面作品として捉えてしまいそうになる出来。
どこに身体を差し込み、どこから腕を出し、
どこがどんな役割を果たすのか。
作品を見ただけでは判断し辛い。
が、そのブラックボックス要素は、
人が袖を通すことで解明されていく。
このプロセス、
正に「服」である。
参考まで今作を纏ったときのお写真がこちら。
身体を包むというよりも、
身体の上に乗せる感覚で。
着る人のボディの影響を受けて、
姿/形を変える、テキスタイル。
松尾 美沙
「着るテキスタイル」より「凸凹」
素材:ウール、麻
技法:ピックアップによる二重織
「着るテキスタイル」二点目はこちら。
これまた着た後のイメージは浮かばないし、
それ以前に、言葉を失いそうになる。
その特徴は、色、形、だけでは語りきれず。
こちら、作品の表面部のアップ。
カラフル、大小のウール玉が揺らぎを持ち、縫い合わされている。
仕上げる為の時間、労力は説明不要である。
着る/着ないの考えより先に、
自身がテーマとして挙げている
「布は平面の状態でも美しい」を見事、具現化していることに、
まずはお見事、と拍手を。
今作の着こなしの写真は、あえて載せないことにする。
どうやって着るのか、
どのように身体に吸い付くのか?
想像して欲しい、
適応性/機能性を重視したFINAL HOMEのように、
平面/テキスタイルとしての魅力を重視した松尾さんの作品も、
沢山の着こなしの可能性が見つかるはずだから。
彼女の作品、服として完結してしまうのは、勿体無い。
纏う者の感性や喜怒哀楽、
好奇心をどこまでも刺激してくれることを願う。
松尾 美沙
「布色」より「結」
素材:ウール、麻
技法:二重織(風通)
今作の解説を松尾さんに伺った際、
あまりに的確な解説過ぎて、唸ってしまった。
色という時の使い方の中に、「顔色」、「声色」があります。
ならば「布色」という言葉があってもいいのではないかと考えました。
計四作品制作された「布色」の中でも、
最も鮮やかなものが「結」
タオルのようにふわっとした表皮を引き剥がし、
数センチの赤い生地が見えている。
断面は唯一白い姿になって、
赤を映えさせる役目を担う。
ロマンチックかつドラマチック。
皮膚と血液の関係性にも見えて、
ドキドキする生地だ。
最後にアーティストをご紹介致します。
細谷 佳永さん(右)松尾 美沙さん(左)
自分が作りたいと思う、見えないものを、
掴み、引き寄せるだけの力をお持ちです。
私達が普段から、慣れ、親しんでいる「服」という存在。
「着る」ことだけに注視せず、
広く「服」を「生地」を「素材」の
未だ見えぬ可能性をこれからも示して欲しい。
それが一つ、アートの面白さだと思うから。
細谷佳永 松尾美沙 『カラフル展』
会期:2015.3.13 - 2015.3.15
(ぱんだ)