EAST : AP-5
(すべては変化しつづけている、目にみえないほどに、ゆっくりと)
慣れというのは恐いもので、存在する様々な刺激に浸り続けていると、
痛みさえも僕らは気にせず生きてしまう。
僕ら人間に備わっている五感という奴は優秀で、厄介な奴で。
全機能をフル回転させたら、僕らの脳みそはパンクしてしまうでしょう。
じゃあどうしよう?
(スペース上部)
だから、僕らはうまく生きる為に、
「気付かないうちに」
溢れかえる情報の山を取捨選択している。
テレビのコマ数は1秒あたり29.97コマ。
そして、記憶が正しければ人間は1秒間16コマ以上であれば、
繋ぎ目を知覚せず、動画を視聴できるとか。
多すぎるコマ数は、僕らの知覚の間をすり抜けて。
ほら、気づけばあんな遠くに居る。
今回の展示は、その隙間にクローズアップしたお話。
知覚できなかった部分のフィルムを切り取って、
壁に並べているのです。
(スペース下部)
断片化されたとある景色。
それは過去の景色がフラッシュバックしたかのように、
小さい壁面に散らばります。
記憶は何かしらの理由からグループ化されている。
集合と配置には何らかの理由があるはずで。
それは作者には見えるだろうけど。
もしかしたら、見ている貴方も既視感に包まれるかもしれない。
その瞬間、この景色は景色という枠組みを外されて、
人間の潜在的な何かに触れる存在になっていることでしょう。
それが何か、探してみて欲しい。
マットな黒が下地に敷かれ、鈍い闇が作品の全てを包みます。
黒は光を飲みこみ、観者の意識も飲みこむ。
(すべては変化しつづけている、目にみえないほどに、ゆっくりと)
中央に位置する作品の中央に添えられた上記の文章のみで、
点在する作品全てにその言葉を注ぎます。
とても丁寧な作品/展示だと思う。
だって、作者は知覚出来ない瞬間を切り取って、
「これだよ」って手のひらに乗せて、見せてくれているのですから。
でも、それでも、並列に位置する景色の間には、
これまた意識をすり抜ける情景が見え隠れする。
時間の細分化は終わらないから、
このコンセプトに終着点はなくて。
だから、これで良いのです。
-すべては変化しつづけている、目にみえないほどに、ゆっくりと-
さつかわゆんさんの展示期間は今週の土曜日までとなります。
じっくり、時間を割いて、作品を対面してください。
そして、ご自身の意識のすき間に意識をねじ込んでください。
(ぱんだ)