糸宮零 『黄色い線の内側』
2020.12.11 - 2020.12.13
[ EAST 304 ]
薄暗い空間の中で静かに流れる時間を感じながら、過去の記憶、想い、感情と向き合うきっかけを与えてくれる糸宮零さんの個展が開催されました。
本展示は「時間」と「選択」の2つを題材とした作品が並んでいます。会場入り口には、作品目録が置いてあり、読みながら鑑賞することで各作品に対する糸宮零さんの言葉を知ることができます。
入り口側には油絵が2点飾られています。右が10年前に描かれた作品で、左が現在のものとなります。2点とも画材や額装方法が同じであるため、描かれている内容の変化が大きく見て取れます。左の作品は色味が単色で暗い印象。
『原色』
ほとんどが錆びてしまっている中、唯一元の姿の鍵が一つ付いています。風化していく記憶は多くありますが、鮮明にいつまでも残る記憶もあるということを表現されています。
『郷愁』
家の中から射す温かな光が特徴的な作品。自然と帰りたくなる場所というのは自分が理想としている場所なのだと思います。そのような場所というのは、決して今住んでいる家とは限りません。
『放棄』
初めて見た際は、小さな子が蹲っている姿と、黒い液体が滲み出している状況に驚きを隠せません。黒い液体はこの子から周辺へと滲んでいます。何もせず蹲っているだけですが、黒い液体はどんどんと流れ、滲み方は場所によって異なり、次第に色味も変化していく。この子にとっては意図していない滲みや変化も、他から見れば全て含めてこの子であると言えます。自分が意図しないものが良いモノの時もあれば悪いモノの場合もあるでしょう。
薄暗い空間の中で糸宮零さんが扱う光と影、音のそれらは鑑賞者を普段の生活から他の世界へと導いてくれます。そこでは時間の感覚が鈍くなり、過去と今の自分を反芻する不思議な感覚を味わいます。そして、忘れていた記憶、忘れたい記憶が呼び起こされ、その記憶と正面から向き合う体験をすることとなります。
展示作品は糸宮零さんが経験した10年間の悩みや苦しみをもとに作られておりますが、その悩みや苦しみを明記していないため、鑑賞者それぞれの経験を当てはめて考えることができます。