山本朱音
『目と眼差しの分裂/不成立』
2020.12.9-2020.12.11[EAST 302]
じっとこちらを見つめているような、見つめていないような。
空間の中央に立つと、絡み合っているようで絡み合っていない、虚ろな目をした人々の視線に囲まれます。
精神科医ジャック・ラカンの著書『精神分析の四つの基本概念』に記されている章「目と眼差しの分裂」を引用した展示タイトルとなっている、自身の同タイトルの展示会の第二弾の展示となります。
静かで洗練された展示空間を、是非お楽しみください。
現在、多摩美術大学油画専攻に在学中の山本さん。昨年まではパフォーマンスを中心に活動を行っていらっしゃり、平面作品に注力し始めたのは本年に入ってからなのだそう。
初期からこの横長の目をした人物像を描かれており、その画面からはどこか窮屈で息苦しいイメージが感じられます。
今年の初旬は少しのカラーリングが施され、ドローイングのタッチで描かれた作品を中心に制作されており、どちらかというと抽象的で憂鬱な印象を与えます。
そしてここ数ヶ月で制作されたという作品群がこちら。
モノクロで半立体的な着色方法に着手され、陰影以外は極力シンプルに、関節は骨張らず、極力滑らかで丸みを帯びたフォルムに。
デフォルメされた人物像でありながらマットな色彩に落とし込むことで、リアルすぎない、でもリアリティのあるちょっとした不気味さも醸され、とても不思議な雰囲気を纏っています。
「人ならざるもの」の空気感を纏った人物は、メタの視点から人間を見下ろしている内面的な存在のようにも感じられます。
本作は、実は今回の展示DMのメインビジュアルに使用されている自身のドローイングから着想を得て制作されたそう。
まるで感情のうねりが表現されているようにも見えますが、その一人一人の眼差しは鑑賞者とは交わらない、そんな切ないジレンマのようなものも感じられます。
もしかすると、彼らは私たち個人の中に住まう存在なのかもしれません。
目は口ほどに物を言う、という言葉がありますが、山本さんが描く作品は目そのものの感情をも無の状態に落とし込んでいるようにも感じられます。
元来より、ドローイング作品は多数制作されていたという山本さん。緻密に丁寧に描かれたペン画も数点展示されておりますので、是非近くでじっくりご鑑賞ください。
作品に描かれている彼らの目を見ていると、無情感を孕みながらも、心を一度フラットな視点へ引き戻してくれるよう。
洗練された凪のような空間を、ゆっくりじっくりご鑑賞くださいませ。