八木原拓磨 『僕と渋谷』



八木原拓磨
『僕と渋谷』
2018.3.19-2018.3.22
at EAST 303

2020年に東京五輪を控えた街は、いままさに再開発ラッシュと迎えています。
そうでなくともこの大都会では、まるで生き物のようにいたるところで街が新陳代謝を繰り返しています。

本展示は、そのなかでも日々めまぐるしく変化を続ける渋谷の街を、当事者としての視点で記録し続けてきた写真が並んでいます。






写真家の八木原 拓磨さんによる当館での初の個展。
壁面に飾られている写真はすべて渋谷の街を記録したもので埋め尽くされています。

生まれが渋谷という作家が写真を撮り始めるきっかけとなった街。その街の変化が時系列順に並べられており、そのほとんどがいまでは失われた風景です。






この2枚の写真は渋谷駅前の開発を記録したもの。
東急のビルが取り壊され、線路向こうのスクランブル交差点にそびえる大型ビジョンが見通せるようになったのがお分かり頂けると思います。

本展示の作品は、この街で生まれ育った八木原さんだからこその視点で渋谷と言う街の変化がつぶさに記録されています。
例え通い慣れた街であっても、外から「来た」私たちにとっては、無くなってしまったものに対しての思い出や当事者意識というのは薄く、いずれはそこに何があったのかも思い出せなくなります。

しかし生まれてからこの土地に根を下ろしてきた八木原さんにとって、何気ない風景の一つひとつに在りし日の思い出や記憶が刻まれているのかもしれません。




スペースに並んでいる写真には年代とともに八木原さんの文章が添えられています。
その言葉とともに写真を眺めると、感情移入をして作品に見入ってしまいます。

モノクロで記録された旧東急東横線渋谷駅とその周辺。
筆者も東京の人間なので、この場所がなくなってしまったということに少なからず寂しさを感じていました。ただ、取り壊されてからすでに5年も経っているなんて驚きました。




いま目の前に広がる風景は永遠ではない。
その予感があったからこそ、八木原さんはシャッターを切っていたのかもしれません。

一つひとつの風景を大切に掬い取るように、ここにある作品はそのほとんどがフィルムで撮影されています。記憶に焼きつけ、フィルムに焼き付けられた数々の風景は実体が無くなっても残り続けます。データではなくフィルムという物質に、形を伴って。


渋谷のみならず、来るオリンピックに向けて東京の街は現在進行形で急速に変化を続けています。
1960年に一度、かつての東京五輪を前に古くからの街の風景が姿を消したことがありました。作家の小林信彦はその出来事を著書『私説東京繁昌記』の中で「街こわし」と表現しています。失われていくもの、消えゆく風景には、例外なくそのすべてに誰かの記憶が刻まれています。

利便性や合理性を追求するあまり、置き去りにされてきたものがたくさんあります。そんな場所や風景に光を当てた八木原さんの作品は、写真がその歴史の始まりから背負てきた宿命を、純粋に全うしているのだと感じました。


【使用スペース:EAST303】
by isaka