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杉本紀江 -Norie Sugimoto-



 " 線を抽出する。 線を描く。
見えそうで、見えなくて。
でも
何かのきっかけを通して
初めて見える。
もしかしたら
ずっと前からそこにあったのかもしれない。

それは、細い糸のような。 "


女子美術大学芸術学部デザイン学科卒業
杉本 紀江さん 個展





目に見えない、ましてや日常の光の中では気付かないものを描きたい


近くて遠い場所にあるものを描こうとする杉本さん。
彼女が使用するのは日本画の画材。

下地と塗り重ねる絵具の色は似通っており、
離れた場所から確認しようにも、見えそうで、見えない。

しかし、この場所で、彼らの姿形を明確にさせるものがある。
それは、光/ライトの存在である。



杉本さんはスペース内の照明の光量を落とし、
持参したライトを数カ所に設置。

一方方向から投射される光の力を借りて、
支持体の上に潜む、見えない線を呼び起こす。

抽出するー


そう、彼女の作品はライティングを経て、
やっと、大切なものの存在が見えてくる。




" シベリア "




フラットな支持体の上の凹凸が
光に晒され/光を照り返し/光を遮る。

日常生活でも繰り返される、当たり前の光景が
ここでは作品としての骨子を支えている。





大切に引かれた、短くも愛しい線の集合


僅かに隆起した一つの線が作る波紋は、
一定の速度で支持体の上を伝い、フチまで至る。

光を得て、やっと見える、この情景は

マイナス70度以下にもなり得る極寒の大地の上で、
吹き荒れる強風をものともせず、存在する、針葉樹林のようだ。





" 静かに "



長い時間をかけて制作されるからだろうか ー

彼女の作品は「樹木の年輪」や「地層」を想起させる。

しかし、私たちはこれらの長さを測れる物差しを持ち合わせていない。

それほどまでに、この場所にある作品たちには、奥行きがある。





この作品を見た貴方は何を思うだろうか。

「砂浜に打ち寄せるさざなみのようだ」
「等高線を思い出した」

とか、私はこれまでに何度も作品のディティールを別の何かに例えた。




" 起点 "



私が考える、彼女の作品の魅力は
まさにこの作品のタイトルと同じく。

想像の起点を担えること、そして
見えない存在に気付くためのフィルターになり得ることだと思う。

大変品の良い作品であるが、斜に構えた様子はなく、
音も無く、鑑賞者の横に寄り添い、
普段使わない脳の一部をもみほぐし、
記憶と想像の中にあるしこりを取り除いてくれる。


綺麗な円形だって、一本の線で構成されているわけではない。
ただ、白で均等に塗りつぶされているわけではない。
内部と外部に見えない線と見えない実が潜んでいて、
それらの集合が、私たちには「点や線や面」に見えているだけ。


このように、意識して、一歩踏み込まなければ見えてこない場所を
杉本さんはここまでクリアな可視化に成功している。




始まりと終わりの端を探そうとして、
一本の紐を延々とたぐり寄せたって、
どうせ、その先、その奥は果てなく続いている。

果たしてその先端、最深部は本当に存在するものなのか?
この作品の突起のように、形あるものなのか?

これは私の思い過ごしかもしれないけど。
彼女の作品は、その先端/最深部の存在を示唆するように
佇んでいる、そう思うのです。


勿論、形ある根拠なぞ何も無いのだけど、
偽りなくそう思ってしまったから、
ここに書き残しておきたい。

そして、私は鑑賞ではなく、体験をしたと思う。
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また、DFG原宿にて無料配布中のDFG MAGAZINEvol.6 に
杉本紀江さんへのインタビュー記事を掲載しております。
作品を鑑賞する前には是非ご一読ください。

最後にインタビュー記事内からの抜粋を掲載致します。


Q.ご自身の作品において、最も愛する特徴を教えてください。

A.何かが起こりそうな静けさ。
台風の前の静けさに似ていると思う。


4月22日(月) までの公開です。
時間をかけてゆっくり作品と向き合って頂きたい。


(ぱんだ)