ネコカレー
『魅力的な4人展』
2019.9.24-2019.9.27
at EAST 302
美大受験予備校の同級生が再集結したネコカレー『魅力的な4人展』。
映像、立体造形などさまざまな媒体を使った、多角的な作品が集まった展示が開催中です。
東京藝術大学先端芸術表現科のおかだかおさん、菅井啓汰さん、永井かおりさんの3人によるこちらの展示。先端とだけあって既存の技法にとらわれず、自身の表現したいものに最適なメディアを選択し、各々の掲げたテーマを表現しています。当初は4人展となる予定でしたが、諸事情により不参加。結果的に四人(三人)展の形となりました。
菅井啓汰さんは映像作品を発表。
「たとえば、シロツメグサを見つけた時のような」というタイトルの映像作品は、音楽、二重構造の映像、環境音が重層的に流れていく作品です。
作品は、一見すると何も具体性のない映像に童謡のような明るいBGMが載せられ、さらにそのバックグラウンドには人々の会話が聞こえてきます。陰にも陽にもつかない、言ってしまえば無色で匿名の映像に陽気な音楽が組み合わされば、その背景に流れる会話の内容もついつい明るいものを想像してしまうものですが、じつはこの会話は「退職する美術講師が、周りの教師たちに陰口を叩かれている」という陰湿なシチュエーションのもの。また映像自体も子供の身長ほどの下から上え見上げる視点、反対に大人からの上から下へ見下げる視点がレイヤードされ、いくつもの面が重なり合いとなっています。
見た目通りの表象をなぞっただけでは、その背景や裏に隠された本質は見えないということが、この映像から伝わってきます。
おかだかおさんはフッカフカの立体作品『人っていう漢字はね』を展示。
このフッカフカ、実際に座ったり横になったりすることができて気持ちいんです。
この「心地よさ」も作品において重要な意味を持っています。
作品タイトルの「」は某国語教師の有名なセリフから。
「人という字は、人と人とが支え合ってできている」という言葉ですが、2019年川崎で通学中の児童が無差別に襲撃された凄惨な事件をきっかけに、現代特有の閉塞感のようなものを感じるようになったというおかださん。電車でふとサラリーマンが居眠りに肩を預けて来たときに、寄りかかられることの心地よさ、寄りかかることによって得られる安心感に気づいたことが、この作品を作る決め手となったと言います。
実際に体を預けてみると、まるで子供の頃母親に抱きかかえられいつの間にか眠りについたあの感覚を思い出します。この作品が母体のようなフォルムをしているのも、寄りかかる/体を預けられるという関係性とそのを肌で感じられるという仕掛けになっています。
ショートアニメーション作品で社会問題を問うている永井あかりさん。
タイトルは『寝た子を起こすなキャンペーン』。
「寝た子を起こすな」はことわざで「せっかく収まった物事に余計な言動をして、再び問題を起こすことのたとえ。 また、潜んでいる欲望をあおって刺激を与えることのたとえ」という意味で使われる言葉ですが、もともとは部落問題の社会問題化および部落民衆の社会的立場の自覚を背景に,それに対する融和的愚民政策の集約的表現として生まれた比喩的表現なのだそう。
アニメーションでは存在を定義できない影のような幽霊のようなものたちが、眠りに落ちた人々に何かをしようとそっと近づいてくる様が描かれています。
部落差別問題は日本が近代化して以降、現在に至るまで社会的な問題として暗い影を落とす一方、その歴史や本質からタブー視されてきました。
しかし世代が進むにつれ、差別/被差別の歴史を知らずに育った子供や孫たちが増えて来ました。ポリティカルコレクトネス、人権問題がこれだけ取りざたされる現代において、差別されて来た側も、して来た側も、その後の世代にそのような悲劇的な歴史を省みるために語り継いでいくべきなのか。一方で、そんな知識を与えてしまっては、いじめを助長し元の木阿弥になってしまうのでは…。「寝た子を起こすな」とはまさにそんな揺れ動く感情を端的に表す言葉ではあり、事なかれ主義が美徳とされる日本人の国民感情の象徴のような言葉でもあります。現状維持を良しとするのか、それとも…。本作はこの国の抱える特有の歪みのようなものを問うている作品のように感じました。
作品は一人1点ずつですが、そのぶん作品に込められたメッセージや表現はとても強いものとなっています。写真だけでは伝わらないので、ぜひ直接見にいらしてください。
【 展示スペース:EAST 302 】
written by isaka