" 絵画とテントとアニメーションを使って、なにもないところをつくります
なにもないところに本当になにもないのか、もう一度よく見つめたいのです "
"ある"から"ない"が生まれて、"ない"から"ある"が生まれる。
この"ある"と"ない"の凹凸によって構成されている私たちの世界において、
"ない"という存在はどのような装いをしているのか。
さつかわゆんさんの展示、絵画とテント(アニメーション)の二部構成にて。
照明光を吸い込むマットブラックを背景に、
世にも奇妙な光景が描かれています。
テントから青白い足がにょきにょき。
その足の持ち主はテントの中に居るのだろうか。
いや、テントはどんな空間と接続しているのだろうか。
僅かな傾きと揺らぎは鑑賞者を揺さぶるのだけど、
そこに安心している自分が居る。
広大な高原の上に突如そびえ立ったプールと飛び込み台。
正確なスケールの把握は難しいのだけど、
サイズがどうあれ、これは異質な光景であります。
どうやって水を入れたのか。
プールの目的は?
常識を当てはめようとした瞬間に気付く、異常性に満ちたの海。
全てをひっくるめて、
それでも"いい"と思わされてしまう不思議な説得力を携えて。
惑わされてしまいそうな鮮やかな色彩は動植物ならば、
獲物をたぐり寄せ、食す為の手段にもなりましょうが。
そんな生存競争に抗う意思も見えない。
イソギンチャクのように波に揺られるだけで、
足の集合は無を埋める為にこそ存在をしている。
10cm×10cm のボードは黒い釘で壁に打ち付けられています。
白と黒の配色/バランスに細心の注意を払いつつ、
タイトルや作家名さえも時には排除して。
何を残すべきなのか
それ意思をひたすら空間に浸透させる。
「 ピースオブケイクス 」
頭上に広がるカーテンから無数の足が下ろされた。
丸みを帯びた、肉付きの良い足は包容のようにやさしい。
無機質な塔を引き抜くのかな?とも見えたりしたのだけど。
タイトルに引きずれた後に、塔がケーキのように見えてきた。
「彼らはコンクリートが好物なのかもしれない…」
どんどん当たり前が更地に返されていく。
どんどん"常識"に穴が空く。
そして "ない" ところが生まれた
話は変わりまして、今展の目玉、画面左側に設けられたテント。
テントの中ではアニメーションが延々と流れています。
作品は全コマ手描き、吹き替えもご自身で行っています。
数分で一周してしまう物語。
そこにはちょっとした起承転結はあるのだけど、
その物語が求める答えというのは明確に提示されていません。
答えなんてものは唯一あるものではありません。
完全なる理解などこの世に存在するのかどうかも怪しい限り。
でも、私たちには"なんとなく"わかるってこと、あったりします。
「答えはAである」とかじゃなくて。
「答えはAではない」という返答をしよう。
それは正解を掴もうとする姿勢にはほど遠いかもしれない。
それでも、不透明な答えに近づくことが出来る手段なのです。
もうさ、"ある"のか"ない"のかなんて議論は裏山にでも放り投げて、
簡単に手に入るもの、もう既に手にしているものを見つめてみようよ。
一から想像する必要なんてないよ、言葉にも形にもする必要なんてないよ。
わかればいいだけなんだよ。
なにもないところにも "ある" ってことを
※展示期間は 4月22日(日)まで。
最終日は夕方まで開催予定とのことです。
(ぱんだ)