楊夢夢
『目撃者』
2022.4.1 - 2022.4.7
[ EAST 102 ]
数々の受賞経歴やギャラリーでの展示経験が豊富な、上海出身の作家 楊夢夢さん。
今回の展示では海の怪獣「目撃者」を制作。名もなき小さな神は、大きな目玉で私たちを「目撃」しています。
ギョロリとこちらを見つめる神々の目たち。
楊さんにとって「神」は大きな制作テーマの一つ。
人が感じる痛い楽しいなどのいろんな感情は、誰かに目撃されて成り立つと考えているそう。
そのため常に誰かに見られているという意識があり、その誰かは神なんだとか。
そして現在はいつも自分を見ている「神」を主なテーマに制作しているそうです。
大学時代に油絵を専攻していた作家さんですが、油絵はどこか自分が思う表現にしっくりこなかったようで模索していたところ、ビーズ刺繍そしてテンペラ画に出会ったそうです。
特にビーズ刺繍は、楊さんにとって特別なようです。「神」をテーマに制作されている楊さんにとって、ビーズは神の皮膚のように感じたそう。
神の皮膚は強くて脆い。
ビーズは一個だけでは弱く脆いですが、何個も連なって神の姿を作り上げた時とても丈夫で強くなる。
楊さんにとってビーズは神を作る上でぴったりだったそうです。
ビーズを皮膚のように感じる。。。私は感じたことのない発想でした。
無数の目玉で覆い尽くされたこちらは、世にはびこる監視カメラをイメージなさったそう。
監視カメラはもともと、人々の安全や命を守るために設置されているものです。
しかし現在では、本当に守られているだけなのかという疑問が浮かび上がります。
ある国では、街中の監視カメラにより、市民の行動が全て把握されるそう。
それは本当に安全を守るためと言えるのでしょうか?
何事もほどほどが大事。そんな風に考えさせられた作品でした。
このように、作品一つ一つに丁寧にストーリーがあり、それを教えていただきながら鑑賞するのはかなり贅沢。
楊さんの心の中に入り込むようで、とても面白くて時間も忘れて聞き入ってしまいました。
個人的に、とても興味深かったのがこちらのストーリー。
「モイラ」というギリシャ神話の女神をモチーフにしているそう。
左から「生まれる」「生きている間」「死」
という人生の流れになっているようで、ビーズの色や構成などによって、それぞれの様子を表現されています。
最後の「死」の目には、糸の破片が埋め込まれています。
これは人生の糸がプツンと切れた様子を表しているそうで、死を意味しています。
下に置かれた絵画も同じモチーフで書かれていて、こちらもまた同じようにそれぞれの神を描いていらっしゃいます。
ただ唯一異なるのが、絵画の方では神の姿がかなり抽象的だということ。
本来、神は姿を持たないという楊さんの神に対する考え方が反映されているようです。
神話に詳しいわけではない私ですが、丁寧にわかりやすく説明していただき、理解を持って作品と向き合うことができました。
神話や現代問題などをファンタジー作品のように見せながら、誰にでも感じることがあるであろうストーリーで、深く考えさせられました。
作品の見方や作家さんの持つ作品への愛を深く感じとても楽しい展示でした。
あなたもこうしている今「目撃」されているかもしれませんよ。
展示は今週木曜日、4月7日までです。