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あいとゆうき 『足掻き』


あいとゆうき
『足掻き』
会期:2017.2.6 - 2017.2.12
WEST : 1-F SPACE

私達は作品を生み出す苦悩を抱えながら足掻いている。
私達はどう生きていくか足掻いている。
後数ヶ月で20歳が終わる足掻きをここに残します。

女子美術大学で版画と油画をそれぞれ専攻されている、
あいさんとゆうきさんの作品展です。



「うねうね」
リトグラフ


リトグラフ、モノタイプ、コラグラフなど。
複数の技法により制作された作品を展示されている版画専攻のあいさん。

お話を伺ったところ、現在興味のあるモチーフは、
上記作品にも表れている、うねうねした生物なんだとか。
その最初に制作されたのが本作。

海蛇、鰐、木の枝、蚯蚓…。
描かれた正体不明の存在は、
鑑賞者に様々な対象を想起させ得るだけの、
魅惑的な表皮を持っている。

細かい話をすると、真横から見た構図、
そしてかっちりとした腕、掌の描写と、
うねる生物の対比から感じられるダイナミズムが心地良い。


「憂鬱な」
コラグラフ


じっくり眺め続けることで、写し取られた素材の元を理解する。
氷解し、内容物が露出する、そんなプロセスを辿っているようだ。

キャンディーの包装、イヤホンコード、ヘアピン、メッシュ素材。
そう判断したけど、違うかもしれない。

制作者しか、確かなことはわからない。
そんなものたちの総和に付けられた「憂鬱な」という名。

勿論、物質自体がイコール憂鬱に変わるわけじゃない。
もっと、ありふれた存在。
ありふれている、平穏だからこそ感じられた、憂鬱が、
ここには描写されているように思う。


「解離」
キャンバス、油彩


学部二年生の際に、油画から版画コースにシフトされたあいさんは、
版画作品と併せて、油彩画も展示。

本作、一筆一筆描かれた、その毛並みの装いは犬。
しかし現実から解離した身体構造は、この世を描写したとは到底思えない。

画面中央部を支点とし、左右に伸びる胴体。
生命体の半身を鏡で反射させただけという理解に留めることもできそうだが、
十分な光さえ届かない迷路の中で出会った、冥界の番犬ケルベロス的なベクトルに、
イメージがシフトしてしまうのを抑えることができない。

版画と油彩、二つの手法を同時に見せる今回の展示方法は、
鑑賞者に複数の視点と、異なるベクトルの深みを見せてくれる、いやはや面白い。





抽象的な思考を絵画で昇華させようと試みるゆうきさん。
モチーフの幅広さからは、
興味の矛先がいたるところに向けられていることが伝わってくる。

割合として、風景画が多いのだけど、
風景を描写するのは主目的ではなく、
あくまで方法、という印象。


「空に心奪われて」
キャンバス、油彩


描画方法も多様である。
海辺の景色を描いた本作は、太陽光を反射し、
眩く白ばむ雲がまず最小に目に飛び込んでくる。

しかし、写真上ではうまく記録できていないが、
作品下部、浜辺の部分マチエールも大変面白い。

黒色の油絵具がキャンバス上で無数に渦巻いているのだ。
天井から注ぐ光を受けた渦が、複雑に光を返し、
白ばんだ雲とは対照的に、不穏な足元を構成している。


「fabrication」
キャンバス、油彩


描かれたのは幼き少女を象る人形。
スプーンでえぐり取られたように、
がらんどうになった眼球の受け皿。

瞳以外は人の形を模しながらも、
人にはなれぬ宿命を持つ彼女は、
彷徨い続ける亡霊のようである。

ふと、半端者という言葉が脳裏に浮かび、
荒々しく、時には絵筆、時にはナイフで、
塗りたくられたであろう絵の具の痕跡は、
彼女が作り物であるということを忘れさせてはくれない。


個人的には本作をシリーズ化し、
「fabrication」シリーズの個展を拝見したい(と勝手に思っている)


あいとゆうき
『足掻き』
会期:2017.2.6 - 2017.2.12
WEST : 1-F SPACE