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nanae tahara 『daylight』



nanae tahara 『daylight』
2018.2.8-2018.2.14
at EAST 303

厳しい寒さが続く今日この頃ですが、冬は晴れの日が多くて部屋に入る日差しが柔らかく、街に出てもほかの季節とはまた違った表情を見せます。夏よりも太陽が低いからか昼間でも影が長く伸びて、そんな様子を観察するのも寒い冬を楽しむコツかもしれません。

たとえ同じ時間同じ場所、同じアングルで写真を撮っても一つとして同じ写真を撮ることができないというのは決して精神論でも綺麗事でもなく、その日その季節によって太陽の昇る位置が変わっていくからというロジカルな理由があります。だから人は写真を撮らずにはいられない。

本展示では、どこにでもあるような、それでいてその時にしか存在しえない日常の断片を掬い取った写真作品が並んでいます。







学生時代はグラフィックデザイン学科に在籍した田原菜苗さんですが、写真を学ぶゼミを専攻し、卒業制作も写真の作品を制作したのだそう。

本展示で捉えられているのは特別な場所の特別な風景ではなく、作家を取り囲む日常の範囲内で撮りためられた写真で構成されています。

展示タイトル『daylight』を象徴するかのように、柔らかな陽の光がカーテンを照らしている作品。カーテンに落ちる影と柔らかな光と、カーテン越しに見える青色が美しい一枚です。日常の輝きは、少し目を向ければ当たり前にそこにあるということを教えてくれます。




展示されている作品は全て同じサイズの大判プリント。
額装はされずクリップに吊るされており、なんだか「生きている写真」を見ているなぁと感じます。写真が展示されたその一角がまるで窓のようにくり抜かれていて、外の景色を見せているような感覚。

縦構図の写真が占める割合が大きい印象ですが、田原さんにとって「クセ」のようなもので、特別意識をして撮っているというわけではないのだそう。同じ縦位置が多いからこそ、一点一点に込められた田原さんの遊び心のようなものが比較されて見えてくるのは面白い。写真の中の縦のライン横のライン、丸い形や四角い形、そこに入る光の加減などすべてがまるで違う表情を持っています。




かねてよりライブ写真も継続して撮り続けているという田原さん。
今回の個展でも数点、そこからのカットが見られます。

日常の風景の中にライブでの写真が挿入されても不思議と違和感がないのは、展示作品に共通する遠近感を感じさせない、平面的なコンポジションが一定のリズムを生んでいるから、ということが言えるかもしれません。ライブ写真というと広角レンズを使い、ダイナミックな構図で臨場感を表現するような写真が想起されますが、展示作品のなかのライブ、バンドメンバーの写真は主要被写体、人自身にフォーカスされた写真で、前景、背景の遠近感がフラットに感じるようなカットがセレクトされています。

なにより田原さん自身、ライブの写真も日常の写真もすべて自分の日常の中にあるもので、そこには何の境界線もないと語っています。ザラついた地面を照らす太陽の光と大型車が作る影のコントラストも、赤い照明に照らされてギターを鳴らすギタリストも、すべては田原さんが切り取った地続きの風景なのです。『daylight』とはそのすべてにある光のことなのかもしれません。





こうやって大きくプリントされているとついつい隅々までじっくりと眺めてしまいますね。

展示されている作品はどれも詩的というか文学的で、まるで見開き1ページをまるごと使って情景描写をする小説の、一場面を読んでいるかのようです。一つの写真を見るたびたくさんの言葉が浮かんできて、目の前の風景が自分が経験したもののように親しみが湧いてきます。


こうやって大きなプリントで作品を観ることができるのは展示ならではです。
インターネットで見る写真と展示で観る写真作品はやっぱり違うものなので、ぜひ実際に足を運んでその空気を感じてもらいたいです。

展示されている写真を含めた作品が収録されたB6判の写真集も会場にて販売中。
展示は2/14(水)まで開催中です。


nanae tahara
http://taharananae.wixsite.com/phonograph


【使用スペース:EAST303】



written by isaka