たなか あずみ
『閉店1時間前じゃないと優しくできない』
2021.8.31-2021.9.6
at WEST 1-B
「絵を描く」ということに行き詰まり、「表現をする」ことをそれ自体を見つめ直すことで独自の手法にたどり着いた作家 たなかあずみさんの個展が開催中。
具象とも抽象とも定義できない、あるいはアナログでもデジタルでもない手法で紡がれた作品が並んでいます
自らが絵を描くという行為を俯瞰して見たときに、モチーフ選びや世界観がアップデートされていないという現実にぶつかり、一時期絵が描けなくなってしまったというたなかさん。
葛藤の末に取り組んだのがデジタルデータを支持体に転写するという方法。
デスクトップ上でデジタルコラージュを制作しキャンバスに転写、その後質感を得るためにメディウムやインクなどアナログの画材を使って手を加え、独特のマチエールが現れた原画作品に仕上げています。
作品は、ノイズのようなテクスチャーの奥になにかしらの景色が見える、というような抽象度で、一見抽象画のような印象も受けます。
ただ、デジタルで描画しているという前提の知識があると、左側の作品はとくに、解像度の粗いデジタルノイズ画像に見えてきます。
ぼんやりと全容が浮かび上がって来るこちらの作品のタイトルは「燃えた庭」。
周辺に草木が生い茂り、中央には花が咲いていて、小さな庭が広がっている様子が見てとれます。
作品に近づきじっくりと眺めてみると、庭の片隅で体育座りのまま俯いて佇む人影があります。
背丈や髪の長さ、服装から少女と少女と思しき人物は、表情もどちらかといえば陰りが見え、何かに苦悩しているような、もしくは諦めのような気持ちがにじみ出ているよう。
「絵を描く」という行為を俯瞰で見て、感覚的にその行為を省略した手法で活路を見出したたなかさんの作品。それでも「表現する」という一番大事な部分は作品に残されており、デジタルとアナログを交差することで、画面にはたなかさんの手による仕事の痕跡がたしかに息づいています。
ミクロな視点でもマクロな視点でも、違った見方ができる奥行きのある作品ばかりですので、ぜひ会場に足をお運びください。展示は9/5(日)まで開催中です。