まさかこの記事に辿りついた方にデザインフェスタギャラリー(以下DFG)を知らぬ者は居ないだろう。
毎日、多くのアーティストが入れ替わり立ち替わり展示会を開催する刺激に満ちたアートギャラリーだ。
アートの宝箱と言ってもいいだろう。
そんなDFGではどうしたって使う毎に会場が汚れてしまう。
しかし、出展経験がある方はご存知だろうが、いつもキレイな状態を保っている。
一体、誰がきれいにしているのか……?
その疑問はこのブログ記事 こうたろうのブレない仕事 シリーズで明かされるだろう。
ブレない仕事に定評のあるこうたろうであるが、
裏方に徹する彼のことを知る者はまだまだ少ない…
さて。
今回は WEST館 の2階スペースを清掃する職人・こうたろうに完全密着してみた。
床の状態を入念にチェックする職人・こうたろう。
緊張感の走る瞬間だ。
DFGに代々伝わる秘伝の強アルカリ洗剤。
水で20倍に薄めて使用する。
これは本来木材を痛めてしまう諸刃の剣だ…
私は逡巡した。アルカリ性洗剤が木材を痛めることは明らかだ。
無論、そんなことはこうたろうもわかっているはずだが…
「オッケー!」
オッケーが出た。
バケツに直接水を汲めるスペースがないため、
手に水を組んで地道に20倍まで薄めるこうたろう氏。
早速スポンジを使ってひどく汚れた箇所を入念に磨いていく。
事実、頑固な汚れにはこの強アルカリ洗剤は効果覿面なのだ。
私は彼に聞いてみた。
「クリーニングまで受け持っているのですか。さくら亭のエントランスギャラリーのことも含め、裏方に徹するとは言え本当に幅が広いですね。」
手を休めずに彼は答えた。
「展示会場が汚れていては、出展者が気持ちよく展示が出来なくなってしまう。当たり前の範疇だ。」
「それは勿論そうですが、一人で全部やるとなると、忙し過ぎていつか体を壊してしまいますよ…」
「…必要としている人がいる限り、私は休まない。もっと言うと私はこれを仕事だとは思っていない。」
もくもくと作業を続けるこうたろう。
「どういう意味ですか?」
「私がこれを仕事だと思っていたならば、私はどこかで手を抜く箇所を見出すだろう。時間や賃金という概念に縛られるからだ。私はこれを趣味の延長だと思っている。度合いにもよるが、自分の趣味に対して自分が納得の出来ないところに完成点を置くことはないだろう。」
「た、確かに…」
その後、ステインを塗り始める。
なんという手際のよさだろうか。
みるみるうちにフローリングが蘇っていく。
「…さっきの話の続きだが、一つだけ忠告しておこう。『忙しい』という言葉は『心』を『亡くす』と書く。私は忙しいなどという言葉は使ったことはない。『忙しい』と口にした人は、きっとその瞬間に何かを失っているということだ。その状況を楽しめるくらいの気概が欲しいものだ。」
私は自分の膝が震えていることに気付いた。
眼の前にいる男は紛れもない「本物」であった。
どうやら、私が想像している以上の器の持ち主のようだ。
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ちなみに、これが塗り直しをする前の床。
什器などを移動させてしまうとどうしても剥がれてしまう…
床を磨いてステインを塗り直したところ。
傷は目立たなくなり、全体の色が落ち着いた印象に。
渇くのを待って、更にワックスをかけて完成!
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そして最後の仕上げ。
窓の外はもうすっかり暗くなっていた。
ワックスをかけるこうたろう。
その表情からはどう見ても苦痛が感じられるのだが、私は何も言わなかった。
野暮な心配など、本物の職人の前では全て杞憂に終わることは明らかだ。
——翌朝。
私は WEST館 2階 スペースに足を運ぶと、完璧とも言える美しいスペースがあった。
こうたろう。
彼は多くは語らない。
彼の仕事が語ってくれる。
目立った仕事をしているわけではないが、
そんな彼を慕う者は今後増えていくものだと、私は信じて止まない。
【 こうたろうのブレない仕事シリーズ 】
こうたろうのブレない仕事 第一話「金縁眼鏡」
こうたろうのブレない仕事 第二話「マスタード色のカーディガン」
こうたろうのブレない仕事 第三話「フラボアを着た職人」
こうたろうのブレない仕事 第四話「鬼」
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